シルバー民主主義
2021年7月4日の都議会議員選挙は一部で「勝者なき選挙」とも言われましたが、投票率は42.39%で過去2番目の低さだったそうです。調べてみると直近の国政選挙の2019年の参議院選挙の投票率も48.80%と参院選としては過去2番目の低さでした。
選挙の度に出る投票率の話ですが、話題に上るのは全体の投票率の低さだけでなく、シニア世代の投票率が高い一方で若い世代の投票率が低いということです。総務省が公表している衆議院議員選挙の年代別投票率によると、過去3回の選挙では20歳代は30%台、60歳代は70%前後と倍程度の差が開いています。
(数字は%) | 10歳代 | 20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 60歳代 | 70歳代以上 | 全体 |
2009選挙 | 49.45 | 63.87 | 72.63 | 79.69 | 84.15 | 71.06 | 69.28 | |
2012選挙 | 37.89 | 50.10 | 59.38 | 68.02 | 74.93 | 63.30 | 59.32 | |
2014選挙 | 32.58 | 42.09 | 49.98 | 60.07 | 68.28 | 59.46 | 52.66 | |
2017選挙 | 40.49 | 33.85 | 44.75 | 53.52 | 63.32 | 72.04 | 60.94 | 53.68 |
もともと高齢者は有権者全体の中で高い割合を占めていて、かつ投票率も高いとなると、年金をはじめとする社会保障などの重要な政策で高齢者層の支持を得られるような施策が優先される、いわゆる「シルバー民主主義」に傾くという指摘もあります。
なぜ高齢者の投票率は高いのか、今の若い人たちも年齢が上がるにしたがって投票に行くようになるのでしょうか。
この点に関しては、「加齢効果」と「世代効果」という考え方があるそうです。「加齢効果」とは何らかの変化の要因が加齢による影響を受けていること、選挙で言えば同じ人が年齢を重ね、社会との接点を持つにつれて政治への関心や意識が高まり投票に行くということです。対して「世代効果」とは例えば「団塊の世代」など生まれ育った世代差の要因による影響、つまりそもそも世代によって政治への関心が異なるとする捉え方です。
「加齢効果」が当てはまるのであれば、今の若い世代も年をとると意識や行動が変化して選挙に行くようになる可能性があります。
それでは「世代効果」はどうでしょうか。今のシニア世代は投票率がほぼ70%台とそれなりに高かった1970年代から1980年代に20代、30代だった世代です。若い時から投票に行っていたシニアたちはそれがある意味習慣化しているのかもしれません。ましてやリタイアして時間に余裕ができ、しかも現役の時のように日曜日といっても特別な予定もイベントもないので、選挙は「重要なイベント」です。だから選挙に行く、そう理解することもできそうな気もします。
また今のシニア世代は60年代から70年代にかけての学生運動を直接、間接に経験した世代で政治への関心が他の世代より高いのかもしれません。だからと言って、シニアたちが今何らかの社会運動によって政策決定に影響力を及ぼしているとか、シニアにとって有利な社会保障政策を引き出そうとしているという話はあまり聞きません。
しかし実際には国の予算配分を見ると高齢者により多くの予算が使われています。年金、医療、介護など社会保障の分野で高齢者向けの支出が増える一方で、教育や子育てなどに充てられる費用は極めて少ないという現実があります。令和3年度(2021年度)の社会保障関係予算35兆8千億円余りの中で、年金、医療、介護の給付費の合計は全体の78.5%を占めています。他方で少子化対策費は3兆円余りで全体の8.5%す。
身近な例をあげると診療所や病院で治療を受けた時に窓口で支払う医療費の自己負担は原則3割ですが、現役並み所得者を除いて、70-74歳で2割、75歳以上で現在は1割となっている点は多くの人が知るところです。
現在の医療や年金の仕組みは様々な歴史的背景があって生み出されたものでしょう。少子化、高齢化が進む社会に必要な制度改革が「シルバー民主主義」のために先送りされてきたのかどうかはわかりませんが、シニアもそれぞれの負担能力に応じてできることをするという方向へ世の中は既に動き出しているように思えます。