英語に再チャレンジ
「英語には苦労したよ」 - 現役時代を思い起こしてそんなぼやきを口にするシニアもいるかもしれません。リタイア後に時間に余裕ができて今度こそはと一念発起するのかどうかわかりませんが、英語に限らず語学を勉強したいと考えるシニアが多いという調査結果もあります。
シニア世代が中高生だったのは1960年代から1970年代にかけてです。当時の学校での英語教育は英語を読むこと、日本語に訳すこと、そして受験のためにひたすら文法と単語を覚えることでした。
それから50年以上がたち英語教育の内容も大きく様変わりして、いつ頃からか「生きた英語」、「使える英語」、「コミュニケーション重視」などの言葉が目立つようになりました。2020年度から2022年度にかけて、小・中・高の英語指導要綱が改訂となり、4技能(読む、聞く、書く、話す)の強化に焦点を当てたさらなる英語教育改革が動き出しています。
この移行期向けに提供されている新旧制度の橋渡しのための教材が文部科学省のホームページにあります。ちょっと見るだけで昔日の英語教科書との違いにビックリするシニアも少なくないでしょう。
これだけ学校での英語教育は変わってきていますが、中学から英語を学び始めて(今は小学校から)大学卒業までに10年も勉強しているのにちっとも英語が話せるようにならない、という状況は改善されてきたのでしょうか。
大学や企業でも利用されている英語の試験にTOEIC(Test of English for International Communication)があります。米国の団体が世界各国で実施する英語によるコミュニケーション能力を測定するテストです。日本独自の英検などと違い他国との成績を比較しやすくなっています。
日本でTOEICを運営する団体のホームページには国別平均スコアが載っています(年間の総受験者数が500名以上の国・地域のみ)。TOEICのリスニング&リーディングテストでの日本の受験者の平均スコアは2019年が40か国中38位、2020年が32か国中27位です。これをみると日本人は「話せない」だけでなく、読解問題やリスニング問題でも相対的に低いスコアであることがわかります。
米国国務省ホームページに英語を母語とする人たちが他の言語を習得するために必要な授業時間数を示す情報がありました。ここでは英語との「言語距離」に基づいて各国の言語を4つのカテゴリーに分けています。
カテゴリーIは英語に近い言語で600-750時間の授業でその言葉の運用能力を獲得できることばで、フランス語、スペイン語、デンマーク語などが入っています。カテゴリーIIは900時間の学習が必要でドイツ語などが該当します。カテゴリーIIIは1,100時間。そしてカテゴリーIVは英語を母語とする人にとって習得が「極めて難しい(super-hard)」言語で日本語はこのカテゴリーIVに含まれ、2,200時間の授業時間が必要とされています。日本語以外ではアラビア語、中国語、韓国語です。
日本人が英語を学ぶのはまさにこの逆のパターン。仮に1日1時間英語の授業があるとして週5時間、年間35週あれば175時間、このペースで2,200時間に到達するためには12.6年もかかるのです。ここまで英語の勉強に時間を費やしている人いますか?
英語の習得には学習者の意欲や態度だけでなく、国の教育施策や教える人の資質、指導方法などいくつかの要素があるでしょう。それに加えて英語と日本語が言語としてあまりに異なっていることも、日本人の英語学習に大きな影響を与えていそうです。
それではシニアが英語の勉強をしようと思い立った時にどうするか。やはり何事も目標はあったほうがいいです。例えば6か月後の英検3級(中学卒業程度)や英検準2級試験合格を目指す。英語の基礎は中学英語で学べるので、中学英語を完全にマスターすることをゴールにするのもよいと思います。それは自分が理解しているだけでなく中学生に英語を教えることができる、地元の公立高校の英語入試問題で(ネットで公開されています)9割以上正解できる(リスニングも含めてですよ)、そんなイメージです。
耳慣らし、口慣らしにはNHKなどの語学講座を利用するのも一つです。テキストは敢えて買わずに、NHKのサイトにある英語番組の中でテキストなしでもなんとかついていけるものを聞いてみるのはどうでしょうか。昔と違って「聞き逃した」、「録音し損ねた」という言い訳は使えないのが今の世の中です。
1日30分やれば頭の体操だし、ちょっと物知りにもなれる。英語学習はシニアにとって結構刺激があります。