OB会とアルムナイ

シニアの皆さんは定年退職した企業のOB・OG会(以下ではOB会と言います)に参加したことがあるでしょうか。大企業を中心に定年退職者の交流の場として活発な活動が行われている会もあるようです。OB会を紹介した新聞記事によると、散歩、旅行、文化活動の発表会、子供に工作を教える、勉強を支援するなど、定年後の刺激や励ましあい、交流の場となっているそうです。

交流だけでなく、中小企業の経営支援や中小企業への人材の紹介、地域を核として出身企業を超えたグループを立ち上げて活動しているケースもあると聞きます。

中には「物申す」OB会となって、多少煙たがられる場合もあるのかもしれません。またOBになったからみんな平等とはいかず、現役時代の職制はどうしてもついて回るので、「OB会とは距離をおいている」というシニアもきっといるでしょう。参加するかしないかは個人の自由だし、1年に1回の会合で顔をあわせる程度であればそれなりに懐かしいし、ないよりあった方がいいよね、という人もいるかもしれません。

目を海外に向けてネットで検索してみると、米国にも定年退職者の組織として”retirees’ association”というのがありました。ただざっと見た範囲では、企業よりも大学や官公庁関連組織をリタイアした人の集まりという印象でした。活動の目的は年金や経済的な安定、健康、福祉など日本のOB会の活動内容と似ている点もあります。

他方で特に米国では定年退職者のOB会よりも「アルムナイ」と呼ばれる退職者のネットワークがより大きな存在感を示しているようです。「アルムナイ」は英語で卒業生や同窓生を意味するalumniから来ています。「アムナイ」が英語の発音により近いように思いますが、日本では「アムナイ」という表記が多くみられます。

日本企業のOB会との最大の違いは企業を定年退職で卒業したOBのみが参加できるOB会に対して、アルムナイは定年よりずっと前に卒業、というか退職や転職した「中退者」が入れるという点です。中途退職者同士、あるいは現職者と中途退職者の個人的つながりではなく、会社が運営にかかわる組織的なつながりであることがアルムナイの特徴と言えます。

会社自体がアルムナイのネットワークやその活動を支援しているのは、会社の事業にとっても利点があるからです。

「中退」が日本よりもはるかに一般的な欧米の大企業では、中途退職者に対すある種の「退社戦略」としてアルムナイを活用しています。退職後も良好な関係を維持することを意識してか、退職時には退職時面談(exit interview)を上司や人事部門が行い、退職の動機や退職後の仕事などを把握しようとします。不愉快な思いをかかえながら辞めていくのを回避するのに役立つこともあり、また退職者の再入社にオープンであることを退職時に示しておくこともできます。

さらに退職したアルムナイから人材を紹介してもらう、顧客を紹介してもらう、マーケティング活動で協力してもらう、事業活動で連携するなど、アルムナイを社外の「営業部隊」のように活用することもあるようです。コンサルティング会社など高度に専門化されたサービスを提供する会社では、アルムナイ組織の運営により積極的とされています。退職した人が事業会社で重要な役割に就いたり、起業することも多く、退職後の連携が新たな価値を生み出す可能性があるからでしょう。

日本でも一部の外資系企業は以前から海外本社と同様のアルムナイ組織を運営していました。最近は日本のスタートアップ企業、人材ビジネスやIT関連などでもアルムナイ組織を立ち上げる動きが出てきているようです。

定年まで会社に骨を埋める覚悟を持つ人々と、時が来たら次のキャリアステージに自ら移る人々、キャリアの作り方が違うと言えば確かにそうですが、退職者に対する会社のアプローチの彼我の差は大きいです。人材の流動化が必要と言われることもある日本の企業社会でアルムナイ組織はこれからどのように広がっていくでしょうか。

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