遺贈寄付
今日は何の日?と聞かれても全く思い浮かばないことがよくあります。世の中には誰でも知っている祝日からほとんど誰も知らない、聞いたこともない「○○の日」までいろいろあるからでしょう。
毎年9月13日が「国際遺贈寄付の日」(International Legacy Giving Day)であることもほとんど知られていないと思います。この日は世界各国の社会貢献団体が遺贈寄付の認知を高め、これまでに遺贈寄付をしてくれた支援者たちへの感謝を表す日とされています。もともとスイスなどいくつかの国で始まった活動がイギリスの「リメンバー・チャリティー・ウィーク」(Remember a Charity Week)と結びついて広がりを見せるようになったそうです。
日本でも2020年から遺贈寄付推進のための「遺贈寄付ウィーク」が開催され、3年目となる2022年は9月13日から19日までの1週間が「遺贈寄付ウィーク2022」でした。
遺贈寄付というのは、財産を遺言書によって家族や相続人以外の社会貢献団体に寄贈することです。公益法人、自分が支援するNPO、学校などが対象となります。遺産を相続した家族が遺産の一部を社会貢献団体に寄付して社会のために役立ててもらおうとする場合もあります。
日本財団が2020年11月に実施した「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査」によると、「遺贈について知っていた」と回答した人が27.8%、「遺贈してみたい」、「財産があれば遺贈したい」など遺贈について関心のある人は20.5%でした。
寄付文化が根付いていないと言われることもある日本ですが、社会の変化の中でいくつかの動きが見られるようです。社会貢献団体はホームページに遺贈に関する案内を載せているところが少なくありません。また遺贈手続きを受託するある信託銀行では、その信託銀行が遺贈について提携している学校、奨学金団体、国際人道支援団体など提携先一覧をホームページに掲載しています。
他方で遺贈寄付をしたいと考えた時に適切なアドバイスを得るための仕組みや、独立した立場の専門家に税制なども含めた総合的な相談をできる場所はまだ少ないのではないかとも感じます。
遺贈寄付を後押しするかもしれない社会の変化はやはり高齢化、少子化、そして未婚化ではないでしょうか。
高齢化によって人々がより長く生きるようになり、親の遺産を相続する時点で既に60代、70代になっている人も少なくありません。現役世代であれば住宅取得や子どもの教育費などに譲り受けた遺産をすぐに活用できたかもしれませんが、年金生活者となっていると使うよりもとりあえず老後(すでに老後ですが)のためにとっておこう、となるのでしょう。結果としてもしちょっと余裕があれば遺したものを少しだけでも社会のために、と思う人も出てきそうです。
また少子化の進行でひとりの故人から遺産を相続する人の数も少なくなっているはずです。法定相続人の平均人数は2.78人という記事を目にしたことがあります。たくさんの子ども、あるいは兄弟姉妹で遺産を分けるのと違ってより多くの財産を1人ひとりが引き継ぐことになると、その一部を社会のために役立てたいという気持ちを抱きやすくなるかもしれません。
さらには未婚化、非婚化の進行です。50歳時の未婚率は男性が23.4 %、女性が14.1%(2015年の国勢調査結果)。これらの人はおそらく生涯子どもを持たずに過ごすことになるのでしょう。となると親から引き継いだ遺産、あるいは自分が働いて得た財産を渡す人がいないという事態になりえます。相続人がいないため遺産が国庫に納められることになるよりは、自分が応援したい団体に遺贈して有効に使ってもらいたいと考えるのは自然な流れとも言えます。
年を重ねるに従って自分にとってより重要なもの、大切にしたいものがはっきりと見えてくるような気がします。そのような中で自分が生きてきた世の中に何か遺したいものがあるのか、少しだけ考えてみるのも悪くないと思うのです。