女性の定年
定年退職とかセカンドキャリアと言えばこれまではもっぱら男性の問題でした。けれども、男女雇用機会均等法施行以降に社会に出た女性たちが50代半ばとなり、定年や定年後の再雇用と向き合うことを迫られるようになりました。
上の世代にロールモデルがいない、男性と比べて再雇用の機会が限られている、上司が年下の男性というのは慣れているけれど後輩の女性管理職の部下となるのはどうかなあ、など男性とは異なる様々な事情を目の前にして悩む人もいるのでしょう。でもそれは長い間苦労をしながらも頑張って仕事を続けてきたほんの一握りの人たちのことでしょう?きっとそれなりの待遇だったろうし、もし大企業に長年勤務していればその「ブランド力」は女性にとってもモノを言うはず。確かにそうかもしれません。
実際に定年退職した女性というのは周りを見渡してもあまりいない印象があります。厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によると、調査対象企業のこの数年の定年退職者数はほぼ30万人台半ばで、このうち女性の定年退職者は11万人程度、定年退職者の約3割が女性です。思いの外多いという感じを受けます。
ひとつ忘れられがちなのが、定年退職はあくまで正社員として会社に勤続してきた人たちの話ということ。パートや契約社員などいわゆる非正規の人たちにはそもそも定年がなかったり、退職金もなかったり、小さな会社であれば就業規則に明記されていなかったりというのが実情のようです。
正規の仕事に就けなかった、職場や自分の都合で40代や50代で非正規にならざるをえなかったなど非正規雇用で働いてきた女性にとって、将来自分の年金だけで生活していくことへの不安は大きいはずです。厚生年金の平均受給額は男性が約17万円、女性は約10万円です。この裏には女性の平均賃金が低いことや、会社員として厚生年金に加入して働いた期間が短かった、という事情があるのでしょう。
非正規雇用者の中でも、未婚や離婚などで配偶者のいない女性にとって定年後の生活設計は特に深刻な問題です。というのも、長い間年金は働く夫と専業主婦の妻という家庭をモデルとして考えられてきたからです。年金制度の中で「第3号被保険者」とよばれる主に専業主婦の人たちが自分自身で保険料を納付することなく基礎年金(国民年金)がもらえるのは、一つのとても象徴的な仕組みです。
未婚の女性たちは働き続けてきた人も多く、厚生労働省の年金受給者の分析によると現役時代は約半数が正社員中心の働き方をしてきています。これに対して離別の場合は正社員中心が約3割と低く、年金額も未婚の人は10万円以上が約6割を占めるのに対して、離婚の場合は約7割が年金10万円未満となっているそうです。
このような状況の中で新たな動きもあります。
厚生年金の加入対象者が拡大して、より多くの非正規雇用者が加入できるようになりました。長い間厚生年金は主にフルタイムで働く正社員のための制度でしたが、2016年10月から従業員が500人を超える事業所では一定の条件を満たすとパート社員も厚生年金に加入できるようになりました。さらに2022年10月からは従業員100人超え、そして2024年10月からは従業員50人超えと規模の小さい事業所へも加入が拡大されます。
会社の社会保険料負担が増えるとか、従業員も社会保険料を払う分だけ手取りが減ってしまう、という意見もありますが、長い目でみたときに女性の将来の年金額を増やしていける仕組みになりつつあるのです。
晩婚化や未婚化が進んでいる社会だからこそ、どのようなライフスタイルを選択しても現役時代には個人としてしっかり年金保険料を払い、定年後には適正な年金を受け取ることができる制度が求められていると思います。