年の瀬のシニアのつぶやき
12月初めのある日、都内で開かれた相続シンポジウムに行ってきました。相続というと多くの資産を持つ富裕層のための相続対策が思い浮かびがちでしたが、今回のシンポジウムはおひとり様時代の対応について考える内容だったためちょっと興味を持ちました。
シンポジウムは会場とオンライン参加両方が可能だったので、会場参加にしました。数えてはみませんでしたが会場での参加者は100名程度だったでしょうか。大半はおそらく60代や70代で、男性割合が多めでしたが女性の姿もそれなりにありました。
相続に関する調査結果の公表、後見や死後事務委任、さらには遺言の普及に関するパネルディスカッションなどなかなか充実した内容でした。弁護士や金融機関など複数の専門家から話を聞くことができた点はもちろんよかったのですが、相続だけでなく、自分の体力や判断能力などの機能が低下した時に備えた制度の利用や、後を託せる人が身近にいない場合に予め考えておくべきことなど、シニアとして向き合うべき問題について情報を得ることができました。
シンポジウムでの説明では例えば寝たきりや認知症になったらどうしよう、もし孤独死したらどうしよう、自分の死後の財産をどうしようなどという不安から終活への取り組みについて考えるようになるとのことでした。これはまさに退職後のシニアが直面するお金、健康、社会とのつながり、という問題と同じですが、もし定年後10年くらいで終活を考えるのであれば問題はより深刻になっているのでしょう。
また遺言書を作成する経緯としては、自分の両親が亡くなり相続を経験して結構もめたり、自分や配偶者が病気になって健康不安を感じたり、知り合いに相続トラブルが起きたり、自分の生活や資産の状況に変化が起きたりしたことが動機となるとの話も聞きました。
日本が戦禍に見舞われ多くの命が失われた時代を経て高度経済成長期に入り、平均寿命も伸びるようになって、人々は長生きすることを一つの人生の目標とし始めたのかもしれません。このため死について考えることや死について話すことを避けようとする気持ちを多くの人が持つようになったのではないでしょうか。
けれどもいつごろからか死について考えたり話したりすることを「縁起でもない」と言わなくなったような気がします。また少子化や非婚化・未婚化、さらには離婚率の増加などで身近に頼れる家族が全くいない、あるいはとても少ないという人が増えてきました。このような状況が終活を後押ししているとも言えそうです。
年金や老人のための医療費などの社会保障コストが将来世代にとって大きな負担になっているという話もよく聞くようになり、自分の老いや病、死にどう向き合うかが人生の大きなテーマとして人々に意識されるようになったということもあるかもしれません。
今年2022年は団塊世代の先頭グループの1947年生まれが後期高齢者と呼ばれる75歳以上になった年です。2023年、2024年とそれぞれ1948年生まれ、1949年生まれが同様に後期高齢者となります。そして2025年には団塊の世代全員が後期高齢者となり、人口の2割を占めるまでになるそうです。
「周りに迷惑をかけたくない」というのは少なからぬ日本人がよく口にすることばです。相続の問題だけに限らず、もしそれが可能な状況であれば自分の人生をそれなりの責任を持って終わらせることができるよう準備をして、周りの人の手をできるだけ煩わせないようにすることも一つの晩年の生き方なのかもしれないと思う年の瀬です。