シニアのつながり
1月も10日を過ぎるとちらほらと届いていた年賀状も途絶え、中旬にお年玉付き年賀はがきの当選番号が発表されると年賀状の季節も終わりという感じがします。
年を重ねると受け取る年賀状も減ってきて、あの人から今年は年賀状がこなかったということもよくあります。
「終活の一環」として年賀状をやめるシニアだけでなく、幅広い年代で年賀状をそろそろやめようという人が増えてきているようです。年に一度の年賀状のやりとりだけというつながりはもういいと思う人もいれば、相手が元気でいることがわかる、年に一度の貴重な機会だから続けたいと考える人もいるのでしょう。
年賀状の数がその人の交友関係の広さやネットワークの豊かさを示すものと考えられた時代もありました。引退後に年賀状の数が大きく減ったことを少し寂しく思うシニアもいるかもしれませんが、人とのつながりというのは年賀状の枚数とはあまり関係がなさそうです。
引退によって別の人生が始まると思えば、人とのつながり方も変わっていくのが当たり前といえば当たり前です。それでも家族以外に話す人がいなくなったり、これと言ってやることもない日々はちょっと侘しく時には欝々としたものになります。
確かに定年退職や再雇用の終了で仕事関係のつながりがなくなった後にどのようなつながりを作っていくかはなかなか難しい課題です。
今から10年以上前のことになりますが、イギリスのロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授の『ワークシフト』という本の日本語訳が出版され、多くの人に読まれました(リンダ・グラットン『ワークシフト』2012年プレジデント社 )。一言でいうならばテクノロジーの変化やグローバル化の進展、さらには長寿化や社会の変化の中で、未来の働き方について考えるための本です。
この本の中で著者は「未来に必要となる三種類の人的ネットワーク」について語っています。具体的にはポッセ(posse)、ビッグアイディア・クラウド(big ideas crowd)、そして自己再生のコミュニティ(regenerative community)です。
「ポッセ」とは頼りになる同志で、声をかければすぐ力になってくれる比較的少人数のグループ。メンバーは以前一緒に何かをやったことがある人で、専門技能や知識が自分とある程度重なり合う人たちです。
「ビッグアイディア・クラウド」は広範囲のゆるいつながりながら様々なアイディアの源となる人たちで、例えば友だちの友だちなど自分から少し離れた位置や立場にいる多様な人たちです。バーチャル空間で出会った人間関係も含まれるかもしれません。
最後の「自己再生のコミュニティ」とは支えや安らぎを得ることのできる人間関係です。個人的に強いつながりを持つ人で実際に会ったり、いっしょに食事をする人たち。一般的には家族や仕事以外の友人と言えそうです。
シニアの世界に置き換えてみれば、「ポッセ」は趣味などでつながっている人。例えばいっしょにテニスをやっているとか、太極拳で月に何回か出会う人、碁仲間、あるいは共通の社会的興味を持っていっしょにボランティアをやっている人なども該当するかもしれません。
「ビッグアイディア・クラウド」は例えば年賀状のやりとりだけになってしまった昔の同僚や学生時代の友人たち。この先会うかどうかはわからないけど、なんとなくつながっている、連絡をとろうと思えばとれる人たちです。
「自己再生のコミュニティ」はやはり配偶者やパートナー、子どもや孫たちになるのでしょうか。親友がいるという人はシニアでは少数派かもしれませんが、親友もこのコミュニティに入りそうです。
「ネットワーク」というと少し実利的な響きもあり、また「新しい人的ネットワークを築こう」などと言うとちょっと重荷に感じるシニアもいるでしょう。でも「つながり」はシニアがいつまでも持ち続けたい、そして意思さえあれば持ち続けられるものだと思います。