孤独感

新型コロナウィルスの感染を防ぐために私たちが人との接触機会を減らすことを求められるようになってからすでに1年半が過ぎました。コロナ長期化の中でより深刻になる社会的孤立や孤独の問題への対策を推進するために2021年2月に内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置され、少子化対策等を担当する特命担当大臣が孤独・孤立対策担当大臣も兼務しています。

どこかでそんなニュースを聞いたよ、という方はおそらくとても少ないのではないでしょうか。特に最近はコロナやオリンピック・パラリンピック、政治のニュースがあふれていて、孤独・孤立対策担当大臣が何をしているのかが報道されることはほとんどない感じです。

調べてみると対応策を検討する政府の会合が開かれ、NPOとの連携も検討され、さらには2018年に孤独担当相が設置されたイギリスの現担当相と日本の担当大臣とのオンライン会談が行われていました。

日本の場合、孤独・孤立の問題への取り組みはコロナ禍での社会的不安との関連でスタートしたためか、コロナ禍でより深刻な影響を受けている人、特に生活困窮者、女性や子供、子育て中の人などに焦点が当てられているように見受けられます。ここでの問題は何らかの形で社会から取り残された「孤立感」を感じている人たちではないかと思います。

他方で孤独と聞くとついシニアの孤独について考えてしまいます。長い間企業や役所に勤めていた人が定年で組織を離れた途端にそれまでの当たり前の毎日、毎朝勤務先に通勤して、チームメンバーといっしょに仕事をして、昼もいっしょに食べにいき、仕事帰りの飲み会で盛り上がるという日常が根こそぎ失われます。人とのつながりや会って話をすることも激減します。シニアにとっての問題はどこにも所属していないことから引き起こされる「孤独感」と言えるのかもしれません。

米国で45歳以上の人を対象に実施された孤独(loneliness)と社会的孤立(social isolation)に関するある調査によると回答者の35%が自分は孤独であると回答していました。収入の低い層の人や、自身の健康状態が悪いと考える人が孤独であると答える割合が高かったそうです。

また日常的に孤独を感じている人が、食べること、テレビを見ること、そしてネットサーフィンで気を紛らわせている一方で、ほとんど孤独を感じることのない人は、寂しい気持ちになった時には友だちと話したり、家族と出かけているそうです。(A National Survey of Adults 45 and Older "LONELINESS AND SOCIAL CONNECTIONS", AARP Research, 2018)

この調査結果で少し意外だったのは、自分は孤独であると感じる人は、40代が最多で46%、50代、60代と孤独を感じる人は減って行き、70代では孤独と感じる人は24%でした。

孤独であると感じる人はおそらく満足感や幸福感も低い可能性があります。内閣府が行った「満足度・生活の質に関する調査」の報告によると、年齢階層別の総合主観満足度では60歳以上が他のいずれの年齢層よりも満足度が高く、特に70代、80代の満足度が高くなっていました。

日米の調査結果からは年をとるほど孤独感は薄れ、満足感や幸福感は上がるということになりそうです。「高齢者は孤独」というのはひょっとしたらステレオタイプなとらえ方なのでしょうか。

もし特に孤独感を感じているシニアがいるとするなら、それはリタイア直後の60代の人たちかもしれません。リタイア直後は生活が大きく変化する人生の大きな「移行期(トランジション)」の一つです。それだけに環境の変化の中でこころにさざ波が立ち、さまざまな思いが交錯します。

孤独や満足感、幸福感は主観的な感情とも言えます。孤独を肯定的にとらえる人もいて、孤独は人間を強くするとか、あえて一人になって自分の時間を楽しみ、深く思索することも必要とか、そんな言葉を耳にすることもあります。

多くのシニアは修行者でも哲学者でもないので、自ら敢えて孤独を求めなくてもよいのではないでしょうか。もし何となく孤独を感じたのならば、ちょっと物足りない、時にちょっと寂しい日々に何かを足したほうがいい。家の外に出る、自分にとって意味のある大切な何かを探す、時には人と一緒に何かしてみる。そんなことを続けながら移行期を過ごしていくのも一つの方法だと思うのです。

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