シニアの「サードプレイス」

最近「サードプレイス」ということばを新聞や雑誌で偶然目にする機会がありました。

「サードプレイス」(第3の場所)というのは家庭(第1の場所)でも仕事場(第2の場所)でもない3番目の「居場所」です。1980年代にアメリカで提唱された概念で、きっかけとなったのが社会学者のレイ・オルデンバーグらが著した『サードプレイス コミュニティの核となる「とびきり居心地のよい場所」』という本でした。

オルデンバーグによるとサードプレイスにはいくつかの特徴があります。まず出入りが自由で特定の結びつきを持たない中立的な領域であり、訪れる人たちが平等に扱われること。会話が主な活動となる利用しやすい場所で、でも場所としてはそれほど目立たず地味であること。そして、そこには常連がいて遊び心に満ちた雰囲気もあり、もう一つのわが家のような空間であること、と説明しています。

サードプレイスに足を向ける人は「今日は誰に会ってどんな話ができるだろうか」という気持ちを持てるし、訪れることが「心の強壮剤」となり元気を回復することもできるということです。また定期的な友だちづき合いから「友だち集団」も形成されます。少し意外かもしれませんが多くの人は長居せずに、ビールやコーヒー1、2杯で出ていくのだそうです。

具体的な例としては英国のパブ、フランスのカフェやウィーンのコーヒーショップが挙げられているのですが、オルデンバーグはこのようなサードプレイスを多くのアメリカ人は持っていないとしています。

日本にはどのようなサードプレイスがあるのでしょうか。日本の「飲み会文化」はコロナ禍でだいぶ衰えてしまいましたが、これまで長い間会社帰りの飲み会という場は多くの働く人にとって大切なサードプレイスだったような気がします。

有名なコーヒーチェーンや昔からの喫茶店もありますが、にぎやかなおしゃべりよりも一人静かにコーヒーを飲みながらスマホやパソコン、あるいは本の世界にひたっている人が多い印象もあります。

多くの人にとってこのような飲食の場所や趣味の集まり、自分のお気に入りの場所などが広い意味でのサードプレイスになるのでしょう。

それでは会社生活からリタイアしたシニアにとってのサードプレイスはどこにあるのか、これはまさにシニアの「居場所問題」とも言えます。第2の場所の仕事場がなくなったシニアにとってそもそも「サードプレイス」と言ってよいのかという疑問はありますが、現役世代と同じようにシニアにとってもサードプレイスは必要だと思います。

シニアのサードプレイスとしては、例えば図書館、ショッピングモール、本屋、お気に入りのカフェや喫茶店、スポーツジム、老人大学(最近は呼び方が変わっていますが)、囲碁会所、趣味の教室、近所の集会所などが思い浮かびます。

オルデンバーグは地域コミュニティの基盤としてのサードプレイスの役割を強調しています。でも地域重視で歩いて行ける所にあるサードプレイスを訪れるのと、サードプレイスで行われる活動内容に重きをおいて、電車や車を使えば30分程度で行ける場所まで足を運ぶ、という2つの選択肢があるのではないでしょうか。

また一人で落ち着いてくつろげる場所か、人との交流のある場所かという選択肢もあるかもしれません。サードプレイスでは会話が主な活動という本家本元の考え方とは違いますが、シニアにとっては交流を主な目的としないサードプレイスがあってもよいような気もします。

シニアが自分のサードプレイスを作ろうと考えた時にはどうするのか?結局は何をしてみたいかを考えることではないでしょうか。リラックスできる場所が欲しいのか、元気やエネルギーを得る場所がよいのか、習い事や趣味の世界に入り込みたいのか、ただのおしゃべりを楽しみたいのか、それとも様々な人との社会や政治についての語らいの場を求めるのか。

まずはちょっとやってみたい、ちょっと興味があることができそうな場所に試しに足を向けてみることから始めてはどうでしょうか。

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