後継ぎ

「後継ぎ」ということばを昔ほど聞かなくなった気がします。

「後継ぎ」というと大企業ではなく個人で経営する事業を継ぐ人で、たいていは息子や娘、あるいは親族など同族間で経営が引き継がれるファミリービジネスをイメージします。

他方で「後継者」は社内、社外を含めて事業を承継するのに相応しい能力や経験のある人材をしっかり見極めて事業を引き継ぐ印象があります。

2023年版中小企業白書によると「子供や孫に引き継ぎたい」と考えている経営者はどの年代層でも多く、30代で3割超、40代と60代で3割近く、70代の経営者では4割がそのように考えています。とは言っても息子や娘に事業を継ぐ意思がない、そもそも事業の成長性が限られているなどの理由で後継者難となることはよくありそうです。

同白書によると後継者不在率はこれまでほぼ60%台であったのが、2022年では調査開始後初めて60%を下回り、57.2%になったと報告されています。その要因の一つとして経営者が50歳代、60歳代の企業で事業承継が進んで、後継者不在による休廃業の動きが鈍っている可能性があげられていました。

依然として親族内承継が最も高い割合であるものの、近年は減少していて、従業員承継や社外への引継ぎの割合が増加傾向にあるそうです。

「後継ぎ」は経済界だけでなく政治の世界にもよくある話です。時に厳しい目が向けられる二世あるいは三世の政治家たちですが、これはまさに「後継者」ではなく「後継ぎ」ではないでしょうか。私企業ではないのに、自分の息子や娘(圧倒的に息子が多いですが)に議員の職を継がせようとする動きはやはり気になります。

企業の承継問題はタイミングを見計らって計画的に行うことも可能ですが、大統領や総理大臣に突発事態が起きた時の後継者はどうなっているのでしょうか。

米国では大統領が死亡などで職務を遂行できなくなった時にその役を引き継ぐ順位が憲法などで明確に規定されているそうです。第1順位は副大統領、第2順位は下院議長、第3順位が上院議長代行。この後は国務長官、財務長官、国防長官とずっと続きますが、基本的にはそのポジションができた順とのことです。ポイントは全て職位名という点です。

それでは日本ではどうなのか?全く事情が異なりました。日本では首相が組閣時に入閣した人たちの経験などを勘案して5名を指名するそうです。ちなみに2023年7月現在の岸田内閣での順位は、第1順位が松野内閣官房長官、第2順位が高市内閣府特命担当大臣、第3順位が林外務大臣、第4順位が鈴木財務大臣、第5順位が河野デジタル大臣。ちなみに菅内閣の時は第1順位が副総理、第2順位が官房長官、第3順位が外務大臣でした。

やっぱり日本社会はポジションよりも「人」なのでしょうか。

改めて考えてみると日本と米国とでは決定的な違いがあるのです。米国では任期途中で大統領職を承継した人は前大統領の残りの任期を最後まで務めます。日本では内閣総理大臣に万が一のことがあった場合、承継順位により第1順位の人が引き継ぎますが、それは暫定的な措置であくまでも総理大臣臨時代理としての職務代行です。総理大臣が欠けた場合は内閣総辞職となり、新たに総理大臣を指名するプロセスが法律に従って執り行われるのです。第1順位の承継者といっても一時的なリリーフに過ぎないわけです。

拠って立つ制度やお家の事情で「後継ぎ」の仕組みも様々なようです。

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