私的年金

今春の賃上げ交渉も終わり、連合が4月に公表した春闘の第4回回答集計によると賃上げ率は5.20%、額にして15,787円でした。人手不足だけでなく「賃上げと物価の好循環」を実現するための政府の動きもあってか、今春の賃上げ率5%超えは30年ぶりだそうです。

賃上げの動きと連動して令和6年度(2024年度)の年金支給額も2.7%の引き上げとなりました。国民年金月額(満額の場合)は66,250円から68,000円で月額1,750円の引き上げ。厚生年金は夫婦2人分の標準的な年金額で224,482円から230,483円へと月額6,001円の引き上げです。こちらも伸び率がバブル期以来で最も高くなったそうです。

年金支給額の引き上げはありがたいことですが、最近の物価高の前には日々のやり繰りに相当の工夫が必要なことはこれまでと変わりません。

それでも公的年金はこのように賃金や物価の変動に応じて給付額が改定されるため、多少なりともインフレに対応していると言えます。他方で多くの私的年金の場合は、一度決められた老後の給付金が原則として変わらないのが一般的です。

私的年金?あまり聞いたことがないよね、というシニアも少なくないかもしれません。年金を既に受給しているシニア世代が現役のころには私的年金というのは現在ほど広がっていなかった印象があります。年金と言えば国民年金か厚生年金の話でした。

私的年金には国民年金の任意の上乗せとなる国民年金基金、企業による確定給付企業年金(DB)、企業による確定拠出年金(企業型DC)、最近iDeCoという呼び名で話題になることも多い個人型確定拠出年金(個人型DC)があります。今ではほとんど聞かれることがなくなった厚生年金基金というのもありました。また、個人で保険会社など金融機関に保険金を支払い、老後に年金として受け取る個人年金保険も私的年金と言えます。

厚生労働省の資料によると現在創設されている私的年金の加入者数は2023年3月末時点で次の通りです。

  • 確定給付企業年金(DB) 911万人
  • 確定拠出年金(企業型DC) 805万人
  • 国民年金基金 34万人
  • 確定拠出年金(個人型DC) 290万人

確定給付と確定拠出(企業型DC)両方の年金制度を持っている企業もあるため、上の911万人と805万人は重複加入人数が含まれている可能性があります。いずれにしても単純にこれらの加入者数を足しても2040万人と全就業者(2023年平均で6,747万人)の3割程度です。

自営業の人や勤務する会社に企業独自の年金制度がない人にとって個人型確定拠出年金のiDeCoは老後資金をより充実させるための新たな手段とされています。しかしながら若い人にも人気のNISA(少額投資非課税制度)と比較すると加入者数は少な目のようです。

私的年金ということばにはなじみがなくとも、中堅企業や大企業に勤務していたシニア世代の人たちの老後の生活は、公的年金だけでなく私的年金の一つである企業年金によってそれなりに守られています。支給額がある程度予測できる退職金や企業年金など従業員の老後の生活をより豊かにするための仕組みがあったので、管理や運用も会社任せでそこそこの老後の生活は確保できたという恵まれたシニアたちもいるでしょう。

これに対して現在の企業型の確定拠出年金では会社がいわば「元本」は各従業員に拠出してくれるものの、従業員が自分で年金積立額を運用して、運用結果次第で将来受け取る年金額が決まるわけで「会社丸抱え」ではなくなっています。

多くのシニア世代が確定拠出年金の仕組みは経験していないでしょうが、話を聞くだけでも「運用方法も自分で考えなければいけないの?これって結構大変なことだね」、「自己責任?運用がうまくいかなかったらどうなるんだろう」と感じても不思議ではありません。

個人の努力で私的年金を充実させることは重要ですが、やはり公的年金が主で私的年金はそれを補完するものであって欲しいと願うのはどの世代でも共通でしょう。

2025年の公的年金制度改革に向けて様々な議論が進んでいます。この中には厚生年金の適用拡大、国民年金の加入期間延長、在職老齢年金の検討などが含まれています。

年金制度の性格上複雑でわかりにくいのはやむを得ないことかもしれませんが、自分にはわからないと思わずに今後の議論の行方を追っていくことが必要だと感じています。

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