ウェルビーイング
私たちの周りには意味のよくわからない、実際に使ったりすることなどありそうもない多くのカタカナことばがあふれています。日本語で言えばいいのにと思いつつも、これらのことばをわかりやすい簡単な日本語に置き換えることは容易ではないのかもしれません。
最近目にすることが増えた「ウェルビーイング」ということばも、日本語に置き換えることが難しいことばの一つではないでしょうか。
「ウェルビーイング」は英語のWell-beingをそのままカタカナ表記したことばです。
オンライン辞書のOxford Languagesによる定義は”the state of being comfortable, healthy, or happy”となっています。日本語にすると「満足できて、健康で、幸せな状態」とでも表現できるかもしれません。単なる幸せではなく、身体的、精神的、社会的によい状態という理解もできそうです。大切な点は「state」ということばで、一過性の健康や幸福感ではなく継続した状態を表すと考えられます。
言い換えるとウェルビーイングとは健康状態や幸福感なども含めて人々の生活の質を向上させ、よりよい生活を継続的に送ることができるようにするものとでも言えるでしょうか。その昔演歌の歌詞に「今は幸せかい?」というのがありましたが、ウェルビーイングは「今」だけでなく持続性が重要なのだと思います。
このように明確に定まった一つの定義がないため、国や国際機関がそれぞれの考え方に基づいて「ウェルビーイング」を測定するための具体的な指標をつくり活用しているようです。
例えば日本でもよく知られている「持続可能な開発目標(SDGs)」の中にもウェルビーイングが登場します。SDGsは2030年に向けて持続可能でよりよい世界を目指す国際目標として2015年に国連サミットで採択されたものです。その中の目標3はGood Health and Well-beingです。この目標は日本語では「全ての人に健康と福祉を」となっていて、ウェルビーイングが「福祉」ということばに置き換えられています。
また、OECD(経済開発協力機構)は幸福度を評価する指標として「Better Life Index(より良い暮らし指標)」というものを設定しています。この指標は11の項目から構成されています。具体的には所得と富、雇用と仕事の質、住宅、健康状態、知識と技能、環境の質、主観的幸福、安全、仕事と生活のバランス、社会とのつながり、市民参画です。これらの項目を使ってOECD加盟国のBetter Life Indexを算出して、「How’s Life?」という報告書で定期的に公表しているそうです。項目の1つである「主観的幸福(Subjective Well-being)」で、ウェルビーイングという表現が使われています。
国力を測る指標としてはGDP(国内総生産)がよく知られていますが、経済活動で産み出されたモノやサービスなどの量の多寡では一国の人々の健康や幸福度合い、福祉の状態は測れません。このためウェルビーイングにも注目することが必要というのは納得できる考え方です。
ひるがえって退職したシニアの人生について考えてみるとOECDのBetter Life Indexを構成する項目はシニアの人生の充実度ともかなり関係がありそうです。雇用や仕事という仕事関連の2つの項目は脇に置いておくとして、それ以外の所得(年金や貯えはそこそこある)、住宅(古くなったけど一応持ち家)、健康状態(とりあえずはなんとか元気)、知識と技能(これまでの人生で培ってきた有形、無形のものがいろいろある)、環境の質(暮らしを囲む様々な状況は悪くはない)、安全(暮らしをおびやかす危険や争いは今のところない)、社会とのつながり(家族があり、友達や知り合いがそれなりにいる)、市民参画(ボランティアや地域での活動をしている)。これら8つの項目は確かにシニアの人生に大きく影響します。
そして何よりも自分の人生はまあまあ幸せだと思えること(主観的幸福)。さらにはこの状態が今しばらくは続きそう。そう思えるのであればその人のウェルビーイングはよい状態だと言えるのではないでしょうか。