自己負担割合

来年度の予算編成に向けてこの数か月間社会保障や税に関する話題が多く取り上げられています。社会保障関係費の中で突出しているのが医療と年金です。国民医療費を年齢階級別にみると65歳以上が約6割となっています。
昨年9月に閣議決定された「高齢社会対策大綱」の中で75歳以上の後期高齢者医療保険の自己負担割合の見直しの検討が盛り込まれました。「高齢社会対策大綱」は政府が推進する高齢社会対策の中長期的な指針で1996年に初めて策定され、以降概ね5年ごとに見直しが行われているものだそうです。
今回の大綱を受けて、個別の政策の中に75歳以上の人が窓口で払う医療費の自己負担割合3割の人を拡大することや、在職老齢年金制度の見直しの検討が盛り込まれているとのことでした。
シニアの皆さんはほぼ誰でも知っていると思いますが、後期高齢者医療保険は75歳以上の人が加入するものです。75歳になり国民健康保険や企業の健康保険などから後期高齢者医療保険に移行すると、自分が「本当の年寄り」になってしまったような気持ちになる方も少なくないかもしれません。
後期高齢者医療保険はそれまでの老人医療費制度を廃止して2008年(平成20年)に創設されました。非常に簡単に言ってしまうと市町村が制度の主体となっている国民健康保険やその他の保険から75歳以上を抜いて、都道府県単位が保険の主体となる制度に移行させたということです。この背景には高齢者割合の高い市町村では、高齢者を加入させたままではもはや国民健康保険制度を維持できないという理由があったようです。
健康保険と言えば窓口での自己負担割合は3割ということが広く知られています。例外が高齢者と子どもです。70-74歳の場合は原則2割負担ですが、一定以上の所得があると3割負担。6歳までの子どもは2割負担です。自治体によっては小学生まであるいは中学生までなどの条件付きで子どもの医療費は自己負担なしとしているところもあります。
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の窓口自己負担割合は、一般の人は1割、一定以上の収入がある人は2割、現役世代並みの収入がある人は3割です。2割の負担割合は2022年10月に導入された比較的新しいものです。
後期高齢者で3割負担の人は全体の7%程度、2割負担は20%程度という情報もありました。
ちなみに後期高齢者医療制度はその財源の5割は国から(税金)、4割が現役世代からの支援、1割は後期高齢者が支払う保険料となっています。
高齢者の医療費負担を少なくするのは、一般的には現役世代よりは収入が減ること、そして個人差はあるものの年をとると病気やけがをしやすくなるからということも言えそうです。
年金額が十分だという人は少数派だと思います。ただお金の「フロー(収入と支出)」は少な目かもしれませんが、お金の「ストック(貯蓄)」に目を向けると少し事情が違ってきます。日本の個人金融資産全体の6割を超える額を世帯主が60歳以上の世帯が保有しているという調査結果もあります。
昨年12月に米国で大手の医療保険会社CEOが殺害されるという事件が起きました。米国は日本のように公的な医療保険制度が確立しておらず多くの人が民間の保険会社の医療保険を利用しています。日本の場合一部の自由診療を除くと公定価格で制度が運用されており、自己負担割合も明確です。米国の場合は民間医療保険の保障内容や自己負担割合などが複雑で、また申請しても保険が適用されず却下されることもあると聞きます。このような制度の下で民間医療保険会社に対する不満が一部に存在するようです。
日本の国民皆保険制度はこれからもしっかり維持していくべき重要な仕組みです。高齢化率が30%に迫り、2070年には40%近くになることが見込まれている今、高齢者がそれぞれの負担能力に応じて応分の負担をすることは制度の維持のためにも避けることができない流れではないかと思います。